早大野球部台湾親善試合観戦記
野球部台湾遠征観戦記
日台稲門会幹事 一色 徹
<この笑顔が人気の秘密>
明日に第一戦を控えている3月14日金曜日、観戦子は天母棒球場(野球場)を訪れました。高級住宅地として日本人が多く住むここ天母地区は、台北市の繁華 街の一つである国賓飯店付近からタクシーで10分、200元(700円)くらいの至近にあります。隣にはデパートの高島屋があり、三越もごく近くに1,2 年前にオープンしたという周囲の環境ですから、坪当たり単価は東京ドームにも劣らない高さでしょう。またこの棒球場は、同じ市立ということもあって、第二 戦で戦う體育学院(大学)の運動場でもありますので、相手には“地の利”があるわけです。
入り口で、同行した台湾棒球協会監事の校友と共に江正殷早大国際部副部長(日台稲門会幹事)と落ち合い、球場の中を下見しました。江副部長はこの野球部台 湾遠征の根回しや引率に加えて、早稲田大学台北事務所開設準備という大仕事を抱えて八面六臂の大活躍をしている最中でした。そんな中でも彼は、台湾とはい え棒球場は吹きっさらしの風が強いということで、ベンチの監督用に座布団を2枚用意して管理員に預けるという、細やかな心遣いを忘れない人でもありまし た。
さて土曜日の第一戦の相手は文化大学です。このチームは、先日までオリンピック予選試合に出場していた台湾代表チームに選ばれた選手が2名いるという強豪 で、一昨年の大学リーグでは優勝、昨年は2位になり、早稲田を破るとしたら二戦目の體育学院よりもこちらの方だろうと現地関係者の間では高く評価されてお りました。
試合前の練習のときに、ミーハーである観戦子は、斎藤祐樹の16という背番号を持参した双眼鏡で探しまわりましたが、その番号はどこにも見当たりません。 去年春の早慶戦では16番が大活躍で優勝に貢献したのにオカシイナと思いつつ、ホームベース上で整列して挨拶をしているナインの背中を見ましたが、ここに も16番はいません。
お目当ての一つがいないなぁと少々がっかりしておりましたが、なんのことはない、斎藤祐樹は今日のこの試合から背番号が1に変わっていたのでした。野球関 係者やマスコミでは知られた事実だったらしいのですが、観戦子は全く知らなかったので危うくその役目を果たせないところでした。
一塁側のスタンドには台北稲門会や台湾校友会のメンバー、日本人駐在員とその家族、留学経験のある台湾人カップルなど7,800人が陣取り、特大の紙メガ ホンで“ワセダ、ワセダ”を連呼していました。目を凝らすと、交流協会池田代表ご夫妻、前台湾校友会謝南強会長ご夫妻も仲良く観戦しておられました。
行政書士稲門会山下政行幹事長(元応援団長)もはるばる日本から駆けつけてくれ、その“美声”による校歌合唱や応援の指揮は、神宮球場もかくやと思わせる見事なものでありました。
<交流協会池田代表ご夫妻と <応援にこの人は欠かせない>
台北稲門会川田会長(右)>
“座布団サービス”で監督もご機嫌だったのか、先発は人気の斎藤祐樹。1回から5回まで見事に相手打線を封じ込めました。コントロールが定まらなかった り、ヒットを打たれたりした場面もありましたが、ランナーを出してからの投球術が彼の真骨頂で、点を与えない頭脳的なピッチングを台湾でも披露してくれま した。
ただ味方打線が湿りがちで、序盤にエラーがらみの3点を入れてからは快音が聞かれず、中盤以降はむしろ文化大学が押し気味に試合を進めていたような感がし ました。ただ結果は3対1でしぶとく勝利を収めました。沖縄キャンプから台湾に直行し、夕べは亜東関係協会主催の歓迎パーティーに出席したので、その疲れ が残っていたのでしょうか。若いし日ごろ鍛えているので一晩寝れば元気が取り戻せる彼らだとは思いますが。
<見事なピッチングの斎藤投手>
試合が長引いたので、日本人学校での野球指導を含めた交歓会の開始も大幅に遅れましたが、学校では大勢の児童や父兄が待っていてくれ、交歓は大成功でし た。選手も試合場や一般ファンに囲まれているときとは全く違う、若者らしい笑顔を浮かべて児童に手ほどきをしていいお兄さんぶりを発揮してくれたので、早 稲田ファンが大勢生まれたことは確実です。OBとしては嬉しい限りでした。
この日のウェルカムパーティーは、早稲田大学台北事務所の入居する予定の新光人寿(生命保険会社トップ、呉東進董事長は校友)ビル16階で開かれました。 予定よりも大幅に遅れた開始になりましたが、今日戦った文化大学野球部員も礼儀正しく長時間待っていてくれました。到着した野球部員は、ユニフォームから 今どき珍しい学生服に着替えており、みな短髪で髪を染めているような人間もいず、その清潔な身なりに、さすがに我が早稲田大学野球部だと大変うれしく思い ました。
会場では、主賓とはいえ彼らは学生野球選手であり、混乱も招きかねないので、選手個々人にはサインを求めたり写真撮影を頼んだりしないでくれとあらかじめ 注意がありました。
とはいえ、日本人学校の児童はそんな注意はモノともせず、サイン帳やボールを持って右往左往していました。2,3人に「誰のサインをもらいたいの?」と訊 くと、予想していた“斎藤祐樹”という答えとは案に相違して「後藤選手」という返事が返ってきました。確かに後藤選手は、いかにも人気がありそうな凛々し い顔立ちの好青年でした。もっとも斎藤祐樹選手はその隣に常に上級生らしい背広姿が付き添っていて、サインなど求めたら睨まれて追っ払われるような雰囲気 だったので、誰もそばに寄らずに遠慮していたのも事実です。彼だけが特別扱いのような感じで、常に周囲の視線を意識してキチンとした姿勢と表情を崩さない 斎藤選手には、好感を持つと同時にやや気の毒な感じがしました。
<蔡榮郎先輩の話に神妙な面持ち>
<文化大学選手と話が弾む>
日曜日の二戦目は市立體育学院が相手です。この大学の出身者には、いまアメリカ大リーグのヤンキースで活躍中(一昨年、昨年と連続19勝)の王建民がいる ので、非常に強いチームと思われていて台北稲門会でもそう聞きましたが、台湾棒球関係者の話では「王建民だけだよ、正直言って昨日の文化大学の方が強い」 ということでした。
早稲田大学国際交流センター(通称台北事務所)開設に関する記者会見を終えたばかりの白井総長の始球式で始まった試合は、須田投手をはじめとする投手陣の 好投と、奮起した打線の活躍により6対0で圧勝、早稲田野球の名を高からしめました。
スタンドでは昨日に続きファンが大勢詰めかけて、チャンスや得点のたびにコンバットマーチや“紺碧の空”が台北の空に響き渡りました。応援の指揮は台湾在 住で元応援部の曽根さん、また日本人学校を卒業して現地の高校に通う女子高生牛丸さんの和太鼓のバチさばきは、昨日に続いてまことに鮮やかでした。
早稲田大学野球部は爽やかな印象を台湾の人々に残して日本に戻りました。
日台の文化交流は今回は野球というスポーツによって大いに成果を挙げました。準備や実行に協力された台北稲門会、台湾校友会のご苦労はいかばかりであった かと、心からお礼申し上げます。有難うございました。
このあとチームは米国シカゴ大学との交流試合を経て春季リーグ戦に突入します。過酷な日程ですが、昨年に続いて素晴らしい成績を今年も残してくれることで しょう。
そういう予感を感じさせた台湾での親善試合でした。
また、リベンジに燃える文化大学が、定期交流戦を申し出ているようです。これが実現すると、来年は日本で試合が開催されることになり、早稲田と台湾の絆は ますます強くなることになります。
日台稲門会も何らかの形で協力したいものです。
おわり